「自分に嘘をつかないこと。自分で納得した道を進むこと。」 パン工房ほとり 吉田翔太さん

 

[所属・名前]

パン工房ほとり 吉田翔太さん

 

[インタビュアーからのひとこと]

大学生活のこと、就活のこと。「生きるって大変だよねぇ」と、優しい笑顔でお話してくださる、とても気さくな方です。周りに流されて生きていると、気づかぬうちに見えなくなってしまう自分の気持ち。誰のせいにもしない、自分で考え自分で決めた道を貫いてこられたその生き様に強く引き込まれました。

 

 

[職業・仕事内容] 


Q.ご職業とお仕事の内容を教えてください。


A. 自営業でパン屋をしています。今年の秋を目標にオープン予定です。

 今はその準備期間ということで、パン工房の内装をDIYしたり電気や水道の工事をしています。工房は身の丈にあった規模で、パンを人に売っても大丈夫なように保健所の許可をいただくというところからスタートしています。

 

[その仕事を始められたきっかけ]


Q.なぜ”パン屋”なのですか?


A.きっかけには本当にいろんなことがあるのですが、大学4年時、大学に行けなくなったこと、院試験に落ちてしまったこと、就活がうまくいかなかったことなどいろんなことが上手くいかない時期がありました。そんな時に、インスタントイーストをもらったんです。なんで貰ったのか、誰に貰ったのかは全然覚えていないんだけど…(笑)

で、せっかくもらったんだから作ってみようと思い、いざ作ってみたら「こりゃ面白い!」、「ふくらんだよ!」って楽しくなって。

 

就活も行き詰まってたし、パンの仕事いいんじゃないか…と思い、(大学があった)茨城県のパン屋を探し、いいなと思ったお店に直接行って雰囲気を見て、そのパン屋は従業員を特に募集していたわけでもなかったんだけれど、「ここで働きたいです」と勝手にメールを送りました。(笑)

 いま思えば小さい頃から料理は好きだったし、キッチンに立つのが好きだった。そういうのも原体験としてあるのかなと今になっては思います。

 

[伝えたい鳥取の魅力]


Q.「パン屋を通して鳥取の魅力を伝えたい」とブログに書かれていましたが、どんな魅力を伝えたいと考えておられますか?

 

A. 1つは、材料の魅力です。

 

鳥取県は、パン用の小麦を大山のまわりでつくっています。これってとても凄いことで、国内産小麦の殆どは北海道産なんです。「国内産=北海道産」と思われるくらい北海道の勢力が強いなかで、鳥取県で小麦粉を作っていると初めて知った時、びっくりしました。自分は通販で県外の人にも売ろうと思っているので小麦粉だけでなく牛乳やバターなど、鳥取県産の質の良い原材料をお届けしたいと思っています。それに付随して、鳥取で作られている生産者の方に実際にお会いすると、「こういう人が作っている」というのが分かるんです。だから、「鳥取にはこういう人がいてこんなことしてて…」という、その人たちの思いも一緒にパンに乗せて届けられたらと考えています。

 
それだけでなく、敢えて言うとするならば、僕が鳥取クラウドファンディングをするとか、ブログを書くとかツイートするとか、そういった発信活動をすることによって、「鳥取のパン屋さん」ということが外に伝わっていく。活動をすることによって、鳥取とほかの地域の人が接点をもっていく。そういう意味では、僕はパン屋だけど、鳥取と接点を持ってもらうきっかけをつくれるんじゃないかなと思っています。

 

[お店のこだわり] 

Q.お店を開業するにあたって、こだわったポイントや大切にされてきた考えなどはありますか?


A. パン業界の環境を良くしたいという思いがあります。

 

残業・長時間労働はパン業界で特に問題視されているものです。

しかし、パンを作るには時間がかかること、たくさんの種類を1日に何度もつくることなどからなかなか改善していません。この問題をどうにかしたい。

 もう一つは食品廃棄の問題があります。毎日毎日、何千円・何万円分ものパンを捨てる。売れ残ったパンは捨てたくはない。でも安売りをするとなると、商売として難しくなってしまう。自分たちで一生懸命作ったものを価値を下げて提供することになってしまうということになる。商売として成り立たなくなれば、お客さんに楽しんでもらうということもできなくなる。こういった問題を解決するために、どれだけ予約制にシフトできるかというところにかかっていると思っていて、パン工房ほとり でもこだわっていきたいと考えています。

 

[学生時代のこと]


Q.どんな学生時代でしたか?

 

A. とにかく遊んで、普通の学生でした。(笑) 

楽しかったなぁ。楽しいことしてるから、楽しいは楽しかったけれど、ただ、今考えれば、「社会に対して何か提供していた」ということは全くないので、そこに関して言えば今とは全くモチベーションが違うかなと思います。

  

例えばクラウドファンディングとか予約制の拡大とか、今はそういう挑戦をすることで、誰かのためになることがあると思ってやっています。自分が進むことによって少しでも社会に良い影響を与えたいと思っていて、そこが学生時代との大きな違いではありますね。

 でもそんなことが言えるのも、酒飲んで楽しいことしてた日々があるからなんだよね、多分。そこでできた友達とは今でもすごくつながりが深かったりして、クラウドファンディングを応援してくれたりとかもするし…。すべてつながってくるなぁと思います。

 

 

[背中を押してくれるもの]


Q.大学に行けなくなる、就活をやめる、ブログを書く、クラファンをする…。

 勇気がいる決断を何度もされてきたと思うのですが(例えば就活に対して何か思っていたとしても、そのまま就活の流れに身を任せて生きていくという人もいるかもしれない中で)、新しい何かを始める時に背中を押してくれる存在や考え方などはありますか?


A. まず第一に、家族と友人はとても大きな存在です。

ここまで育ててきてくれた両親はもちろん、兄貴、親戚のおじさんおばさん、じいちゃんやばあちゃん、高校や大学で知り合った仲のいい友人は、僕が何をしようとしても必ず前向きに捉えてくれ、説教じみたことを言う人は誰一人いない。「そうなんだ、応援するよ、頑張って」って、ただ認めて背中を押してくれる。そういう人たちのおかげで、「どれだけ良くない状況に行ったとしても前に進んでいけるんだ」ということが自然と感じられているし、「やろうとした時には応援してもらえる」と分かれている。本当に恵まれていると思います。

 


考え方の部分としては、自分に嘘をつかないことが大事。違う言い方をすれば、とことんマイペースでやれ、という感じ。人に流されるな、とも言うかな。自分に嘘をつくと、違和感が生まれます。必ず。就活、エントリーみんな20社するんだって。と聞いて、じゃあ自分も、なんとなく20社エントリーすることを目標にしてしまっている、とか。自分の頭で考えずに、自分の中に違和感があるのにそれに嘘ついて行動してしまうと、必ずどこかでだめになっちゃう。

 

だから、自分で考えて自分で進むこと。そしたら言い訳できないから。自分が納得して進むことをしっかりやっていると、「人と比べて」ではなくて、自分なりに必ず前に進むことができる。人と比べることは必要ないんだよ。

 


Q.「会社員として働く」ではなく「開業する」という道を選ばれたのにも、ご自身のマイペースな部分というのがつながっているのでしょうか?


A. つながっていますね…(笑)。


会社で働くというのは、チームプレー。チームで利益を出してそれが自分にかえってくる。チームプレーの良さはもちろんあるし、やりたいことが大きなことだと一人ではできないから、チームで動く以外に道はないよね。なんだけど、僕が感じたのは、自分でやった仕事の対価を自分で直接受け取りたい、ということ。会社員として働くというのは、自分ではなく会社が商売しているということ。だから、例えばそこで一生懸命頑張って働いても、すっごくサボって結果が出なくても、すっごくサボってるのに結果を出しても、自分の評価が社会的に上がったり下がったりするわけではない。それに対して違和感があって、今の自分は社会的には全くの無名なので、そこを一歩社会に踏み出して、良くても悪くても自分自身に評価が返ってくるほうが楽しいなって思ったんです。

 

あとは、マイペースすぎてあまり周りに合わせられないから…(笑)。マイペースというのは、短所でもあるし、長所でもある。物事には必ず良い面と悪い面がある。メリットはこうで、デメリットはこうで…と客観的に見ています。良いほうに捉えられるかは自分次第。良いほうに向けてのばそうとするのは大切なこと。良い面をどれだけ見れるかっていうのが大事なのかなと思います。

 

[今後の目標]
Q.最後に、今後の夢や目標をお願いします!


A. 個人としての目標は1つ、決まっています。それは、「誰もが挑戦できる社会にしたい」ということ。ある意味僕はこういうふうに、何かありながらも前向きに生きていけるように育ててもらったのは最大の強みかなと思ってて、「前向きすぎてこわい」と言われたこともあるくらい(笑)。

 今まで出会ってきたなかで、一歩を踏み出せない人というのはとっても多い。「ホントはこういう仕事がしたいんだけど自分にはきっとできないし、親もやめろって言うし…」とかそういった大きなものもあるし、ちょっとしたものもある。「あの人、気になってるんだけど、声かけられない…」とか。些細なことかも知れないけど、それもチャレンジ。そういうのって、誰かに背中を押してもらうことで前に進めることだと思うので、僕が行動することで少しでも挑戦できる人が増えたらなと。自分をありのまま認める、自信をつける、そういうのがもっと社会にあふれるようになったらいいなと思います。 


パン屋としては、先ほどお話したように、「パン業界を良くしたい」ということ。 長時間労働とかの問題が蔓延してるとチャレンジできないよね。新しいことに挑戦しようとしても今その目の前の現場があって、パンを焼いてお客さんに届けることでいっぱいいっぱいだから、なかなか難しい…。

 

というふうに考えれば、全部つながってる。

「誰もがチャレンジできる社会」が一番上にあったら「パン業界をもっと良くしたい」というのがその下にあって、それをやるために今は自分の事業を成立させようとしてます。というのも自分の事業がうまくいってないと説得力も何もないからね。自分が挑戦してない人に、「挑戦しようよ」って言われても、ねぇ…。(笑)

そこが今から頑張るところ。今やってるのは、自分のチャレンジ。自分が踏み出した一歩が、誰もが挑戦できる社会、お互いが背中を押しあえる社会へのステップになればいいなと思います。

 

 

 

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インタビュアー:佐伯&大國

文責:佐伯